真っ暗











静かで、宇宙のような深い闇の空間には居た。




先ほど意識を取り戻してから、ずっとこのままである。



意識だけはハッキリしていて、この説明し難い状況を先ほどから苦悩しつつ


考えてはいるのだが、一向にの頭には一つの考えしか浮かんでこない。



「地獄...?」



ぽつりとは呟いて静かに唸る。



はどちらかといえば現実主義なのだが、このような状況では、


地獄と勘違いするのも無理はない。



そんな時、激しい耳鳴りがした。



それと伴に、ハンマーで思い切り頭を殴られたような酷い頭痛もした。



「..っ痛っ...!」



思わず声が漏れ、は苦痛に顔を歪めた。



今まで味わったことのない激痛にどうすることもできない。



苦しい...!




すると、突然『何か』がの足を掴む。



「?!..やだっ!」



は息も絶え絶えにそう叫んで抵抗したが、声は虚しく闇に吸い込まれる。



底なしの闇に落ちていく。下へ下へと、深い闇へ...



の意識は、そこでまた途切れた。












ぐるぐる...ぐるぐると、自分の死ぬ時の場面が、まるで第三者視点で見ているかのように

エオンドレスに流れ続ける。



ドゴォンッ!




突然、大きな音が聞こえた。その拍子にはビクっと目を覚ました。



「あ...れ?」



五感がすべて戻っている...わたし、生きている。



しかも自分の様子をよく見てみると、不可解な点が他にもある。



トラックに轢かれて、血で制服は汚れていたはずなのに、まったく汚れが見当たらない。



さらにちぎれた自分の腕も、まるで何事もなかったかのように元通りくっついている。



「どうして....?!」



思わず口に出てしまう。現実が信じられない。もしかして自分はまだ夢でも見ているのだろうか。



でもこんなリアルな夢なんてあるはず無いと、頭の中で冷静に考えている自分がいた。



確かに私は一度『死んだ』のだから。



...それにしても、一体ここはどこだろう。異常な冷気に思わず寒気がする。



とりあえず現在地をなんとか確認して、警察か安全な所まで行かないと。



真っ暗で何も見えない。こんなとき携帯を持っていればと心底後悔した。



下は岩だろうか..?冷たくてゴツゴツしているからたぶんそうだと思う。



それにしてもまったく人の気配というものがしない。ここに人は存在するのだろうか。



とりあえず何か役に立つものはないかと、ブレザーのポケットに手をつっこむが、中には



くしとリップクリームしか無い。あまりに寒くて、思わず歯がガチガチと震える。



寒い....。ブレザーを着ていても寒い。下は短く切ってしまったスカートとハイソだから足がさっきから



スースーして余計に寒さが増す。



本当にどうしよう。このままじゃ飢え死にか凍死がいいところだ。



大声で叫んでみる?...いや、危険だ。手当たりしだい歩いてみる?...それも更に危険だし。



此処がもと居た東京である可能性も低い。こんなに寒いとなると場所の見当もつかない。



やはりむやみに動き回るのは危険だな....やはり明るくなるまでじっとしているのが得策か。



ああ...お腹減ったな...。そういえば昼から何も口にしていない。おまけに寒い。




スカートを切らないでおっておくべきだった、後悔。




身体から体温をなるべく逃がさないように体育座りで縮こまる。リップクリームのフタをあけて


乾燥した唇に塗ると、オレンジの甘い香りが空気中に広がり、少し落ち着いた。






そうして震えていると、突然出来事は起きた。



いきなり何者かにナイフのような刃物を首元につきつけられた。



「..っ?!」




あまりに突然の出来事で、頭が真っ白になる。恐怖か寒さからか歯が震える。



どうしてこんなにもの音一つしない中で、近づけたのか不思議でたまらない。



こんなに恐ろしい状況って他にあるだろうか。身体もブルブルと小刻みに震える。




誰なの....?本気で殺されるかもしれない...。




姿の見えない謎の人物が喋った。



「Who are you(おまえはだれだ)?」



静かな闇の中に低く響いた。息一つできない緊迫感と静寂につつまれる。



でもこれで、ここが英語圏又は外国人の出入りのある場所だということがわかった。



英語なら幼い頃から英会話のレッスンをしているから話せる自信はある。



『ここはどこですか。』ゆっくり、緊張しながら質問した。



質問に質問で返すのもどうかと思うが、今はそんな場合じゃない。更に私は続けて質問する。


『気づいたらここにいて、何故わたしはここにいるのかわからないのです。』たぶん..文法は間違えていないはず。



必死に冷静を装っているけど、声が震えているのは明らかで、内心とても緊張している。



震える自分の身体を押さえつけ、相手の出方を慎重に待つ。



後ろにいる謎の人物はそんな私をまだ警戒しているようで、『ガブナー』と誰かを呼んだ。



一人じゃなく複数だったのか...、と思っているとその途端に一人増えたような気配がした。



きっとその人が『ガブナー』と呼ばれている人なんだろう。



後ろにいる二人はヒソヒソと何か話している。しかし妙だ。



こんなに近くにいるにも関わらず、会話の内容がまったく聞き取れない。



筆談でもしているんだろうか?でもこんな暗闇の中では無理か。



後ろの二人は会話が済んだのか、一人が私の首元からナイフのような刃物を外した。



とりあえず今すぐは殺されないのかも、と少しだけほっとした。



でもこれから先、私は一体どうなってしまうんだろう。最悪なパターンが頭から離れてくれない。



そしてほっとしたのもつかの間、一人の男の人の顔が近づいてくる気配がした。



そして訳もわからないまま、息をはきかけられた。




その瞬間、私はまた意識を失った。