キャット レディ!




CAT LADY


朝早く、風影の部屋の前に我愛羅はきていた。
我愛羅はドアを軽くノックする。中からは「誰だ」と返答が返ってきた。

「...俺だ」
我愛羅はこう言った。

「..我愛羅か。入れ。」
ドアを開け、中に入る。風影は奥に座って正面を向いている。風影は我愛羅に言う。

「一体朝早くからどうした。」
親子ということを感じさせない冷たい空気。まるで二人が対峙しているようだ。

「迷子のねこを預かる。3階の空き部屋を借りてしばらくそこに住ませる。
 そのことを伝えにきただけだ。」

風影はぽかんとして、一瞬目の前にいるのが本当に我愛羅なのかと本気で考えた。
「ねこ...?別に構わないが...。」

なんでまた迷子のねこなど拾ってきたのだ。しかも冷酷非道な我愛羅が面倒を見るだと?
何かの冗談かとも思ったが、そんなことはありえないだろう。

「なら良い。」
そうとだけ冷たく言い、我愛羅はすぐ出て行ってしまった。

残された風影と護衛のものは、理解できぬままお互いの顔を見合わせるだけだった。







「...そうそう。とりあえずこれで大まかな仕事の説明は終わったわね!」

「ありがとうございます、キクノさん。」

我愛羅がいなくなってから、私は受付のキクノさんに仕事内容を教えて貰いました。
仕事内容はたくさんあって覚えることも多いけど、バイト経験を生かして頑張ろうと思う。
なんでも、この世界には『忍』が存在するんだそうです。びっくりだよね。
我愛羅さんも忍だそうで。しかもこの国で最も偉い風影様の息子らしい。
ほんとに格が違うというか、そんな偉い方の息子さんにここまでしてもらうなんて
恐れ多いことだなぁ、としみじみ考えた。本当に運が良かったと思う。

「それにしてもねこちゃん!」

「えっ?!」
急にキクノさんが私に声をかけてきたので、私はビクっとした。

「あたしゃ我愛羅様があんなに話してるの初めて見たよ!おまけに物怖じせずに
 我愛羅様に笑いかける女の子なんてねこちゃんが初めてだよ!」

キクノさんはわははと豪快に笑いながら私の背中をバンバン叩く。
私もあはは、ととりあえず笑い返した。笑いながらも今のおばさんの言葉を考えた。


物怖じ...


そうか...!私がずっと違和感を抱いていたのは、『我愛羅を恐れている』という周りの態度だ。
でも、なぜ...?その原因って何だろう。単に風影の息子だからとかそんな理由ではないと思う。
むむむ、と首をかしげながら悩むねこ。

「カンクロウ、我愛羅の姿が見えないが。」

「あれ、我愛羅はもう行っちゃったんじゃねーの?」

そんな会話の声が聞こえてきた。
見てみると、金髪のかわいい女の子と全身真っ黒で、顔にペイントのような
ものをした男の子がいた。

「おはようございます、カンクロウさま、テマリさま」
キクノさんがその二人に向かって挨拶する。
私もあわててその挨拶に続く。

「あっ...おはようございます。」

受付は座っているので上半身だけでお辞儀する。顔を上げると、その二人が
近くに来ていて、キョトンとした顔で私を見ていた。

「キクノおばさん、このオネーサンは誰じゃん?」

「初めて見る顔だが。」
カンクロウとテマリが続いて言った。

「新しく補佐をしてくれる事になったねこちゃんだよ。ここに住むそうだから
 これからよく顔を合わせるかもしれないね。」

「「ねこ...?」」
二人は首を傾げている。

「えと、始めまして。猫梨 鈴です...どうぞねこと呼んでください!」
にっこり、とほわほわした独特のねこオーラを発しながらネコは自己紹介をした。

一瞬静かになる受付。
何か変なこと言ってしまったかなぁ、とねこは「あのぉー」と首を傾げながら二人を見つめた。

「...あっ、俺はカンクロウ!よろしくじゃん、ねこ。」

「私はテマリ。何かわからないことがあったら遠慮せず言ってくれ。よろしく。」

「はいっ!よろしくおねがいします〜。」
相変わらずのオーラを放ちつつ、そう返した。

「それじゃ、そろそろ任務に行く時間じゃん。」

「そうだな、では行ってくる。」

「いってらっしゃいませ」
キクノが言う。

「いってらっしゃいませ〜」
ねこも続けて言う。

二人は颯爽と消えていった。二人が消えていったのを確認して、ねこはキクノに聞いた。
「あの、キクノさん。今のお二方は誰でしょう?」

「今のお二方は、我愛羅様のご兄弟で、同じく風影様のご子息よ〜。」

「ええっ!?そうなんですか。わぁ〜すごいなぁ。」
我愛羅にはお兄さんとお姉さんがいたんだ...。こうしてみると私、知らないことばっかりだなぁ。
徐々に色々わかるようになるといいな。

ねこはそう思った。







「ねこちゃん、もう戻っていいわよ。お疲れ様。」

「はい〜、お疲れ様ですー」

もう5時過ぎになっていた。今日はあの後もいろいろ忙しかった...。
いろんな人に尋ねられて自己紹介したりして、ノドもつかれちゃった。
そんな私にキクノさんがこう言った。

「あ、暇だったら今のうちにちょっと外を見てくればどう?
 まだ来たばっかりで外の様子とか知らないんじゃない?」

「はい!じゃぁ行ってきます!」
ねこはキラキラと目を輝かせて答えた。

やったぁ!一度町の様子とか見てみたかったんだよね。嬉しいなぁ。
外に出ると、大きな砂の造形や、見たことのないおもしろい形の家などがあった。

「わぁー...すごぉい!」

ねこは感心して周りをキョロキョロ見渡す。歩いている人も、服装も、まったく
違うもので、見ているだけでウキウキしてくる。

でも時間は早いもので、あっという間に辺りは薄暗くなってくる。
家に光がともり、追いかけっこなどをしていた子供たちは家に帰ってゆく。
「ただいまー」という声が聞こえてきそうだ。
お母さんと手をつないで幸せそうに歩く女の子を姿を見つめる。


なんだろう...なんだかとても切ない

家族のみんな...心配してるかな。突然消えちゃってきっとショック受けてるだろうな。
私...帰れるのかな...。もう会えないかもしれない。

「ねこ」

突然呼ばれてビックリして声のする方向を振り向く。

「が、あら...」

「どうした」

「あ、お仕事終わったから...少し外に出て散策してみたの。綺麗な町だね。」
へへ、と笑いねこは答える。

「...そうか」
我愛羅が答える。外はもうじき夕日が沈み、暗くなるころだ。
静かな時間が流れる。

「ねぇ、があら」
返事のかわりに、我愛羅は無言でねこを見つめる。

「私ね..があらに会えてほんとに良かった。あのままだったら..私、ここにいることなんてできなかったもん。
 があらのおかげで..わたし、助かったよ。」

「俺は..何も救えなどしない...傷付け、破壊するだけだ...」

「があら、そんなことないよ..!があらのこと、まだわからないこといっぱいだけど私は、うれしかったもの..。
 孤独から、救ってくれて...。」

「......。」

沈黙が流れる。空がグラデーションのように美しく輝いている。

「...があら、そろそろ戻ろっか?」

「....ああ。」

二人で来た道を戻る。があらは特に何か話すわけじゃないけど、徒歩で私のペースに
さりげなく合わせてくれている。そんな気遣いがとても嬉しかった。

「えへ..おなかすいちゃった...! そういえばがあらは何が好き?」

「....砂肝。」

「ふふっ..!砂肝かぁ..おいしいよね。わたしも好きだよ〜。」
そんな他愛もない会話をして、歩く帰路は、まるで小さい頃の帰り道のように、楽しかった。



また、あした。







「マジ、ありえないじゃん...我愛羅がねこと一緒に歩いてるじゃん...,]

「しかも心なしか楽しそうだな。あたしこんな我愛羅初めて見たよ。」
カンクロウ、テマリが二人から少し離れたところからそんな会話をしていた。
今日の任務を終えて、一人でさっさと帰るのは珍しいことではないのだが、まさか
ねこと一緒にいるとは思わなかった。

「ねこ...不思議な子じゃん..。我愛羅が変わってくれればいいんだが。」
そんなカンクロウの呟きを聞いたテマリは思った。
いや...もしかすると...もうすでに我愛羅は変わっていってるのかもね...。
静かに、我愛羅の姉はそんな事を心の中で呟くと、カンクロウの背をバン!と叩いた。

「痛っ!いきなり何するじゃん!テマリ!」

「ハハハ、さぁ私たちもさっさと帰って飯にしようか。」



今宵も月は、綺麗に輝く。