キャット レディ!




あたしはねこ。


CAT LADY


あたしの名前は猫梨 鈴。

ねこなし
この苗字が由縁であたしは「ねこ」と言われるようになった。
そりゃあもちろん小さい頃にはからかわれたりもしたけどね。
でも、ものは考えようだよね。

だって猫って素敵だと思わない?
時に束縛を嫌って軽快に生きる。すばらしいと思うの。
何ものにも流されず、ただ自分の好きなように、本能のままに。

ただのわがままだの何だのって言う人もいるけどね。
でもあたしは毎日わくわくして生きたいの。
だからね、今を我慢して出し惜しみなんてしたくないの。

それは、これからもずっと変わらないあたしの信念です。







「ねこちゃーん、もう上がっていいよー」

「はぁい、店長! お疲れ様です。」

ここはあたしのバイト先の居酒屋。
ここであたしは10時までバイトしてる、一応高校生だしね。
バイトは疲れるけどやりがいがあって楽しい。

「お、ねこちゃん上がり?そういえば最近ますますべっぴんさんになってきたねぇ。」

「ふふ。そんなお世辞言っても何も出ませんよ。それではお先、お疲れ様です。」

着替えを済まして、厨房のおじさん達にそう返事をして帰宅する。
今は夏なのだけど、さすがに10時過ぎだと外は真っ暗で涼しい。
月が綺麗に輝いている。思わずほう、とため息をつく。

バイト先から家まではバスで15分。あたしはバス停でぼんやりとしていた。
さっきまで賑やかな居酒屋にいた分、静かで隔離された世界にいるような感じ。
しばらくするとバスが着た。でもあたしは少し異変に気づいた。
いつも乗っているバスとは違って、行き先が表示されていない。
おまけに、暗闇でハッキリはわからないけど、赤一色の無地のバスだ。
もしかしたら回送のバスかな。というかこのバス定期使えるのかしら。
プシュー、と音をたててドアが開く。回送のバスではないことはわかった。

「あのぉ、この定期使えますか?」

あたしは運転手さんに尋ねた。バスによってはこの定期が使えない場合がある。

「ええ、使用できますよ。」

運転手さんはにっこりと笑いながら答えた。

その返事を聞いてあたしはほっと安心してバスに乗り込んだ。
この時、あたしは絶対的な間違いをしていたのに気づかなかった。
『行き先』をたずねていないまま乗ってしまった。
でもバイトでとても疲れていたし、間違えたら降りればいいだろう、とタカをくくっていた。
あたしは真ん中付近の一人席に座った。バス内はぼんやりと薄暗く、乗客は
あたし一人だった。広告もないし、少し違和感を覚えたけど別にどうでもいいや、と
外を見つめた。外は人が一人もいない。まぁこんな時刻にいっぱい人がいても変だよね。
バスはまもなく発車した。わずかに体が揺れる。
あたしはだんだん眠くなってすぐに意識が途切れてしまった。

どれくらいそうしていたんだろう、気がつくと真っ暗な車内にぽつんと座っていた。
やばい、寝過ごしちゃったわ!と思った直後、運転手が居ない事に気づいた。

「あれ...もしかして取り残されちゃったのかしら....」

真っ暗で周りの景色もよくわからないし、あたしは今どこにいるのかな...。
むむむ、と唸ってとりあえず携帯をパカっと開く。時刻は2時05分。

「あっちゃー...!お母さんとお父さんがきっとご立腹だわ...。」

電話しようとしても圏外だし、残りの電池が一個しかない。

最悪なコトって重なるのよね。 とりあえずバスから出ないとあたし閉じ込められっぱなしだわ。
出口の方に向かい、開くわけないと思いながらドアを試しに押してみる。

すると、なんと空いた!

やったぁ、これでなんとか帰れる、と思い意気揚々と降りる。

さくっ



.....さくっ?

嫌な予感。これはそう...確か幼稚園ぐらいの時によく経験した...
ああ、砂!砂の感触だったのね。わぁ広い砂場.......

じゃない!!!...いけない。あまりに突飛すぎて頭がおかしくなってる。

「さ...砂漠....?」

何をどうしたらこんな状況になるんでしょう?
お母さま、お父さま、ねこは未知の世界に迷い込みました。



まいごのまいごの、こねこさん。