あたしはねこ。
CAT LADY
あたしの名前は猫梨 鈴。
ねこなし
この苗字が由縁であたしは「ねこ」と言われるようになった。
そりゃあもちろん小さい頃にはからかわれたりもしたけどね。
でも、ものは考えようだよね。
だって猫って素敵だと思わない?
時に束縛を嫌って軽快に生きる。すばらしいと思うの。
何ものにも流されず、ただ自分の好きなように、本能のままに。
ただのわがままだの何だのって言う人もいるけどね。
でもあたしは毎日わくわくして生きたいの。
だからね、今を我慢して出し惜しみなんてしたくないの。
それは、これからもずっと変わらないあたしの信念です。
*
「ねこちゃーん、もう上がっていいよー」
「はぁい、店長! お疲れ様です。」
ここはあたしのバイト先の居酒屋。
ここであたしは10時までバイトしてる、一応高校生だしね。
バイトは疲れるけどやりがいがあって楽しい。
「お、ねこちゃん上がり?そういえば最近ますますべっぴんさんになってきたねぇ。」
「ふふ。そんなお世辞言っても何も出ませんよ。それではお先、お疲れ様です。」
着替えを済まして、厨房のおじさん達にそう返事をして帰宅する。
今は夏なのだけど、さすがに10時過ぎだと外は真っ暗で涼しい。
月が綺麗に輝いている。思わずほう、とため息をつく。
バイト先から家まではバスで15分。あたしはバス停でぼんやりとしていた。
さっきまで賑やかな居酒屋にいた分、静かで隔離された世界にいるような感じ。
しばらくするとバスが着た。でもあたしは少し異変に気づいた。
いつも乗っているバスとは違って、行き先が表示されていない。
おまけに、暗闇でハッキリはわからないけど、赤一色の無地のバスだ。
もしかしたら回送のバスかな。というかこのバス定期使えるのかしら。
プシュー、と音をたててドアが開く。回送のバスではないことはわかった。
「あのぉ、この定期使えますか?」
あたしは運転手さんに尋ねた。バスによってはこの定期が使えない場合がある。
「ええ、使用できますよ。」
運転手さんはにっこりと笑いながら答えた。
その返事を聞いてあたしはほっと安心してバスに乗り込んだ。
この時、あたしは絶対的な間違いをしていたのに気づかなかった。
『行き先』をたずねていないまま乗ってしまった。
でもバイトでとても疲れていたし、間違えたら降りればいいだろう、とタカをくくっていた。
あたしは真ん中付近の一人席に座った。バス内はぼんやりと薄暗く、乗客は
あたし一人だった。広告もないし、少し違和感を覚えたけど別にどうでもいいや、と
外を見つめた。外は人が一人もいない。まぁこんな時刻にいっぱい人がいても変だよね。
バスはまもなく発車した。わずかに体が揺れる。
あたしはだんだん眠くなってすぐに意識が途切れてしまった。
どれくらいそうしていたんだろう、気がつくと真っ暗な車内にぽつんと座っていた。
やばい、寝過ごしちゃったわ!と思った直後、運転手が居ない事に気づいた。
「あれ...もしかして取り残されちゃったのかしら....」
真っ暗で周りの景色もよくわからないし、あたしは今どこにいるのかな...。
むむむ、と唸ってとりあえず携帯をパカっと開く。時刻は2時05分。
「あっちゃー...!お母さんとお父さんがきっとご立腹だわ...。」
電話しようとしても圏外だし、残りの電池が一個しかない。
最悪なコトって重なるのよね。
とりあえずバスから出ないとあたし閉じ込められっぱなしだわ。
出口の方に向かい、開くわけないと思いながらドアを試しに押してみる。
すると、なんと空いた!
やったぁ、これでなんとか帰れる、と思い意気揚々と降りる。
さくっ
.....さくっ?
嫌な予感。これはそう...確か幼稚園ぐらいの時によく経験した...
ああ、砂!砂の感触だったのね。わぁ広い砂場.......
じゃない!!!...いけない。あまりに突飛すぎて頭がおかしくなってる。
「さ...砂漠....?」
何をどうしたらこんな状況になるんでしょう?
お母さま、お父さま、ねこは未知の世界に迷い込みました。
まいごのまいごの、こねこさん。
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