5秒前




今まで生きてきて、告白をされたこともなければ
誰かを一心に好きになって告白したこともない。

自分を好きになってくれる男性がいないなら、
別に一生結婚しなくてもいいと思っていたし、
ずっとこれからもそうなんだな、と思ってた。

けど。

「おれの女になれよ。」

何がどうしてこうなったのか理解に苦しむ。



「じょ、冗談はやめて。からかってんの?」
そもそもあたしみたいな女に告白するなんて相当頭イっちゃってる
としか思えない。

「冗談じゃねェよ。オレはいつだって真剣だぜ?」
その口調に誠意が感じられないんだよ!
そうやって歯の浮くような台詞で女をいっぱい引っ掛けて
きたに違いない。私はその女の1人にしかすぎないんだ。

「ど、こが...!...はぁ...もう疲れた。帰りたい。」

「オイオイそんなこと言うなよ、カルシウム足りてねェんじゃねェの?」
一々、この男の言動は癪にさわる。
いくな暇だからって、私なんか相手にしないでさっさと行けばいいのに。
どうせ飽きたらポイだろうけど。この男のことだから。

ぐい。
手首を引っ張られる。

「ちょ...いきなり何さ!」

「気晴らしに木の葉散策しようぜ、今はケチな相棒がいねェし...」
ケチな相棒って...誰だろう。
そう思いつつぐんぐん進んでいく飛段。

「あのー...飛段さん...」

「オイ、”さん”はよしてくれよ、飛段でいい。」

「飛段さんさんさんさん....」

「オイィ!もっと増えてるじゃねェかよ!」

「......ップ..ッハハッ」
思わず笑ってしまった。
飛段がこっちを凝視している。

よ、ようやく笑ったな。」

「.....へ?」

「さっきからずーっとしかめっ面してたからよォ。
 そんなにオレが嫌かと思ったぜ...」
頭を少しかきながら、そう言う飛段。

「あ...ごめん。それは感じ悪かったかも...。」
この男が嫌いなのは揺るぎようのない事実だけど、
露骨に態度に出しすぎた点は悪かったと反省した。

飛段はふっと小さく笑って再び歩き出した。

林を抜けると、商店街の方はどこかと聞かれ、教えた。
でもそこで私はあることに気がついた。

「あのさあ、飛段。」

「んァ?」

「飛段ってビンゴブック載ってんでしょ?
 堂々とショッピングなんかしちゃって平気なの?」

「フン、オレを誰だと思ってやがる。無敵の飛段サマだぜ。
 そこいらの忍なんて相手じゃねェよ。」

「....さいですか。」
なんか...ここまで自信たっぷりだと、逆に清々しい気さえしてくる。

私達は夕方の商店街に到着する。
夕食の買出しにきたおばさんたちや、親子、お店の人の
掛け声などが混ざり、とても賑わっている。

私はとりあえず、生活用品や薬局、おおまかなお店の
場所の説明をしておいた。
飛段は大人しく説明を聞いている。

その後、ウィンドーショッピングさながらブラブラして
お店を見ていく。

飛段はあるお土産屋の木の葉の里の民芸品に興味を持ったらしく
少し持ち上げてじっと見たりしていた。

傍から見ればその光景はとても絵になるもので、真剣な表情の
横顔は、不覚にも見惚れてしまうものがあった。

少し離れたところにいるお姉さん2人がキャッキャと見ている。

はあ、美形は得だねー...、そう思いつつ少し離れた位置に移動した。
ほんと、なんで私みたいなんと一緒にいるんだろう、物好きな男。
綺麗なお姉さんや、ナイスバディでお色気たっぷりのお姉さんなんて
いっぱいいるのに。飛段みたいな男だったら、向こうからよってきて
くれるだろう。

あー、それにしても...きもちわるい...あつい...私日陰人間なのに。
こんな長時間の直射日光は身体に響くわ....。低血圧で鉄分不足の私にはつらいっす...。
少し休もうと、ベンチの方に頑張ってよろよろ進む。


ヤバ...ちょい、マジでキツいかも...。


頭がぐわんぐわんとめまいがする。鐘のゴーン、ゴーンというような
音が直接脳に響くような幻聴がする。視界がにぶる。
思わずベンチにドサッと倒れる。

あー...あれ、飛段かな...。もう気が済んだのかな...。
身体が重い...わたしは麻酔かけられた象かよ....。
あ、意識が..ほんと....ギブだわ....。

意識が途切れる直前、黒と赤の模様が見えたような気がした。







ゆっくり、目が覚める。

緑が目に広がる。あれ、ここはどこだろう...。

「オイ、...大丈夫か?」
いきなりアップで飛段が現れる。

「あれ...飛段じゃん...」
あれ、何だろう...この状態。
ハッと今の自分の状況を冷静に気づいて飛び起きる。

ひ...ひざまくら!ぎゃー!

「....そんだけ素早く起き上がれんなら平気そうだな。」
飛段は私の様子を見てこう言った。

私は、冷えたクーラーの部屋から突然真夏の太陽の下を歩きまわったから
熱射病にかかってしまったらしい。自分ごとながら情けない。

ああ、それで日陰に連れてって上半身を高くするためにひざまくらしてて
くれたんだ....。ああ、ビックリした。

「...ありがとう...ごめん。」

「今度から、しんどかったら、言えよ。いきなりであせったんだぜ。」

「わかった..。うーん、でもちょっとその様子見てみたかったかも...。」

「....ったくこのアホが。」

「ごーめーんー!...ってイター!」

めずらしくうつむいて静かになったから、悪いと思って慌てて謝ったらデコピンをくらった。

「なんつうデコピンの威力だ...飛段の馬鹿力め。」

「うるせェ。さ、帰んぞ、送る。」
がしっと俵抱きにされる。私はお米か。

「ちょ、歩けるって!悪いから。」

「病人は黙ってろっての。家どこだ?」
私は黙ってお米になることにした。
家の方角と場所を教える。

びゅんびゅんと景色が過ぎる。私には絶対ない力。
ああ、この男は忍なんだな、って改めて思う。

こんなに近くにいるのに、それだけでなんか雲の上の存在の
ように感じてしまう。(いや、実際そうなんだけどね)
なんだかそれが柄にもなく、少し切ないような気がする。



家について、下ろしてもらう。
周りはもう薄暗い闇につつまれている。

「いやー、ごめん。今日はありがとね。」

「あァ、それじゃあオレは戻るぜ。」

「うん、そいじゃね!」
ドアノブに手をかけ、片手を上げてそう言った。

「あァ、ちゃんと休んどけよ。」

「イエッサー」


バタン
ドアが閉まる

飛段は、が家の中に入ったのを確認すると一瞬にして、
薄暗い闇の中に姿を消した。






「たーだいまー」

あたしはそう言いながら居間へ向かう。

「おかえりー、珍しく遅かったわね。」

「ん、ちょっとねー。」
そう答えると、お父さんも居間にやってきた。

「おかえり。そういえば今、誰か男と話してなかったか?」

ギク

なんて鋭い(やっかいともいう)父だ。
心の中で舌打ちしてとっさにこう答える。

「やだなー、何いってんのお父さん。あれは男じゃなくて今日お友達
 になった女の子のハナコちゃんって子だよ!」

「なんだ女の子だったのか、それはよかったな。」

なんとか難を逃れた。にしてもハナコって誰だ。
人間慌てると訳の分からないことを喋りだすものだ。

わたしは部屋に戻ってベッドに倒れる。
また明日、飛段と会うことになるだろうか...

気まぐれっぽいし、その可能性は低いかな、と思った。
ゆっくりとまぶたが眠気で下がる。


明日は、何色だろう。





(少しずつ、少しずつ何かが変わっていく気配がするのよ。)